COLUMN

《コラム》
「Why me?」に
答えられない起業家は
生き残れない時代が来た
※NewsPicksより転載

※本記事は2020年7月にNewsPicksにて掲載された記事になります


「プログラミングは起業家に必須の知識だ」と言われて久しい。しかし、その言葉の意味するところを私たちは本当に理解しているだろうか。
「G’s ACADEMY(ジーズアカデミー)」は、デジタル教育のパイオニア=デジタルハリウッドによる、起業・就職希望者のみを対象とした起業家・エンジニア養成スクールだ。プログラミング未経験者も多いなか、設立から5年で50組以上のテック起業家を生み出すことに成功している。 課題の多さから離脱する受講生も少なくないという「本気」のギークスクールに、今プログラミングを学ぶ意味を聞いた。


卒業ミッションは、プロダクトをゼロから完成させること


「起業家に限らず『解決したい何か』があるビジネスパーソンにとって、プログラミングは強力な武器になります」


こう話すのは、デジタルハリウッドの杉山知之学長だ。


ハリウッドの映画制作の現場のように、技術を持った個人が組織に頼らずとも生き生きと仕事ができる世界をつくる。この目標のもと、デジタルハリウッド(以下、デジハリ)はデジタルに関連するあらゆる領域を融合して学べる独自の教育を提供し、多くの卒業生を世に送り出してきた。


そのデジハリが「セカイを変えるサービスを生み出す」をミッションに、起業家・エンジニアの養成スクール「G’s ACADEMY(ジーズアカデミー)」を設立したのは2016年6月のことだ。なぜあえて別のスクールを立ち上げたのか。


杉山知之

「世の中にはプログラミング自体が好きな人もいて、そういう人はどんな現場でもエンジニアとして生きていける。一方で、プログラミングを『課題解決の手段』と捉える人もいます。僕自身は後者で、研究者時代、プログラミングに打ち込んでいたのも、『解決したい何か』のためでした。


実際、G’s ACADEMY(以下、G’s)の受講生には、企業、あるいは業界のなかで、何度アイディアを出しても反応が得られず、『これは自分でやるしかない』という覚悟できた人が多い。


デジハリのプログラミング教育は『読み書き・そろばん・プログラミング』という考え方に近く、プロダクトを作るには不十分。それで、新たにG’sを立ち上げたのです」(杉山氏)


ジーズアカデミー原宿校
G’s ACADEMYは、2020年10月2日より原宿・神宮前徒歩1分の場所に拡大移転。

アイディアだけでダメなら、アイディアをかたちにして見せるしかない。逆に言えば、かたちにさえできてしまえば、企業・業界内だけでなく、投資家に向けての説得材料にもなる。


「解決したい何かがあるビジネスパーソンにとって、プログラミングは強力な武器になる」とは、まさにこのことを指すのだ。


そのためG’sでは、「プロダクトを作りあげること」を卒業要件としている。


「きちんとしたものは、資金が集まって、エンジニアを雇えるようになってから作ればいい。とりあえず動くもの=プロダクトを用意することが重要です。それだけで事が前に進む可能性が生まれます。


制作過程で自分のアイディアに確信が持てたり、逆に詰めの甘さに気づけたりするのも、実際に手を動かすことのメリットですね」(杉山氏)


エンジニアとして「就職する人」ではなく、エンジニアと共創できる「経営者」を育てる


設立の背景には日本のエンジニア業界が抱える課題もある。G’s ACADEMYでジェネラルマネージャーを務める児玉浩康氏は、デジハリの社会人向けスクールの責任者でもあった。


「当時、デジハリに入学される方々にとっては、やはり就職がゴール。プログラミング分野の場合、CGやデザインなどのコースと比べて就職先の数はあるものの、あまりクリエイティビティを感じられない就職先が多かったんです。


日本の場合、エンジニアは大企業の下請けとしての受託業が大半ですから」


児玉浩康

フェイスブックやグーグルのような企業で働きたいとプログラミングを学んでも、実際には古い基幹システムのメンテナンスを主業とした企業の求人がほとんど。


そのような環境で、クリエイティビティを発揮できるエンジニアを養成しても、社会のニーズとミスマッチを起こしてしまう。


さらに、今はまだ求人ニーズもあるものの、IT受託業はどんどんオフショアに食われていく領域で、そのクライアントも製造業をはじめとするレガシー産業がメインと、あまり明るい展望が望めない状況だ。


「それで、何よりも先に『雇用する側』の数を増やすべきだと考えました。事業者、主体者として『雇用する側』になる人を育成する学校。それがG’s ACADEMYです」(児玉氏)


就職先が豊富にあるところに講座を立てるのが一般的な社会人教育。設立から5年で50組以上の起業家を生み出したG’sは、全く別の思想からスタートしているのだ。


リカレント教育
文部科学省「『社会人の大学等における学び直しの実態把握に関する調査研究』報告書(2016)」よりNewsPicks作成。「専門的知識」、「論理的思考能力」、「情報分析」など上位にランクインしている能力は、いずれもプログラミングを通して習得可能なものだ。

「『セカイを変えるGEEKになろう』というのが僕たちのテーマで、GAFAのような企業を生み出すことを大真面目に目指す、日本でも稀有な場所です。


多くの起業家が生まれているのは、在学期間中に『Why me?』という問いに真剣に取り組み、必ず答えを出すからでしょう。アイディアより、プログラミングの技術より大切なことです」(児玉氏)


「Always Ask “Why me?”」は、G’sが掲げるクレドのひとつだ。


G’sには起業を志向する社会人が集まるため、なかにはMBA取得者もいれば、社内の新規事業コンテスト常連者もいる。


すると、すでに起業のアイディアがあることは珍しくないが、「市場規模がこのくらいだから、こういうことをすれば、このくらいの事業にはなるだろう」と、児玉氏いわく「MBAチックな発想」止まりのことが多い。


児玉浩康2

「プログラミングを習得すれば、ある程度何でも作れるようになります。でも、実はそこからが重要で、自分にとって『何がコアなのか』を見定めたうえでプロダクトを開発する。これがG’sの基本です。


アイディアを前進させるための仲間を作ったり、投資家に興味を持たれたりするには、自分の価値観を絞り出す必要がある。そもそも、『Why me?』への答えがないプロダクトは完成にも至れないし、起業できないし、勝てません。


入学時は懐疑的だった人も、手を動かし、成功・失敗した先輩たちを見るうちに『Why me?』の重要性に気づいていきます」(児玉氏)


Lightning Talk
G’sでは定期的に「Lightning Talk」という企画プレゼンの場が設けられる。これは、対話を通じて価値観や使命感を自覚するための手段でもあり、「一緒にやろう」と協力関係を築く場としても機能しているという。

助太刀に学ぶ、自分の“コア”を乗せたプロダクトとは


2017年11月に建築業の現場と職人をつなぐアプリ「助太刀」をリリースした我妻陽一氏も、G’sで学ぶなかで自分の使命を見出した一人だ。その後の2年半でユーザー数が13万事業者を突破するなど、「助太刀」は破竹の勢いで成長を続けている。


「短期間でプログラミングを学んでビジネスモデルを考えるとなると、インバウンド、グルメ、写真の共有など、似通った方向で考えがちです。でも、講師や仲間と話すうちにそれは自分の『コア』ではないと気づくんです。


当時私は電気工事会社を経営して10年たっていました。建築業界では500万人が働いています。日本の就業人口は6000万人ですから、ほぼ10人に1人の割合です。しかし、建築業界の仕組みは非常に複雑なため、業界外からのイノベーションは期待できない。


『自分がやるなら建設業しかない』と覚悟が決まりました」(我妻氏)


我妻陽一

もちろん、自分のコアを見つけただけでは、プログラミングができるようにはならない。毎週、相当な量の課題が課され、週に30〜40時間を勉強に充てる必要がある。


「本当に大変なので、一人では絶対に乗り切れませんでした。同期の友達と『どこまでできた?』『今週の課題、全然わからない』と話しながら、励まし合っていましたよ(苦笑)。


弁護士や会計士、あるいは商社など、僕以上に本業が大変そうな仲間がいたからこそ、離脱せず打ち込めたと感じています」(我妻氏)


社会人対象でありながら課題が多いのは、実際に手を動かしてものづくりに取り組まない限り、プログラミングは身につかないという哲学の表れだ。弾きたい曲がない人にギターを教えても意味がないのと同じで、「絶対に作りあげたい」という意思がなければ、G’sではやっていけない。


G's ACADEMYの制度

「『やはり本業に集中したい』という人も含めて、途中離脱する人は少なくありません。


G’sをいいコミュニティにしていくためにも、本気で打ち込めない方には離脱してもらったほうがいい。入学5週間後に授業料を後払いしていただくのも、そういう思いがあるからこそです」(児玉氏)


なぜ、プログラミングが人生を変えるのか


半年間のカリキュラムの最後には、受講生から選抜されたメンバーがビジネス企画とプロダクトを発表する「GLOBAL GEEK AUDITION(GGA)」が行われ、この場には投資家も多く参加する。


我妻氏は、「GGAの打ち上げでは投資家から連絡が殺到し、飲む暇がないほどでした」と当時を振り返る。


一方、G’s ACADEMYは独自で最大500万円の投資も行っている。「G’sの理念を実現する卒業生と長く関係を続けていきたい」という思いから、それを一番いいかたちで実現できる「経営者と株主」の関係になるのだ。キャピタルゲイン狙いではない。


ただし、「一番身近で彼らを見てきた僕たちの投資によって、ほかの投資家に注目されるという効果もあるようです」と児玉氏。卒業生にとってメリットのある制度であるのは間違いないようだ。


GGA
昨年11月にSHIBUYA QWSで行われたG’s ACADEMY卒業制作プロダクト発表会「GLOBAL GEEK AUDITION」の様子。GGAは参加する企業や投資家とのマッチングをおこなう場でもある。

プログラミング経験ゼロの状態から、必死に勉強し、起業、その後の経営まで。幅広く、長い期間を起業家たちと接するなかで、児玉氏の考えにも変化が生じたという。


「開校当時、プログラミングを学ぶべき社会人は、最初のプロダクトを作りたい起業志向の人、あるいは自社サービスを提供している企業に就職したい人や、自社内でサービスを立ち上げたい人だけだと考えていました。


今では、どんなビジネスパーソンも習得すべきだと考えています。理由のひとつは、最近盛んにDXが叫ばれるようになってきたこと。もともとITと親和性の高い産業だけでなく、レガシー産業も含めて、自社ITサービスの提供を通じて、価値を高めるのが当然とされつつあります。


もう一つは、G’sの受講生を見ていて、プログラミングの思考技術が現代のビジネス上で非常に重要だと、改めて気付かされたことです」(児玉氏)


プログラミングの思考技術
「プログラミング的思考は、実際にコードを書くときだけでなく、ビジネスにおけるさまざまな場面で応用できる」と児玉氏。

モノやサービスが飽和する以前は、「20代男性にこれが売れる」「30代女性にはこれ」というクラスタマーケティングがある程度は通用した。しかし、今は個に入り込んでいかなければ勝てない時代だ。どんなビジネスでもPDCAを高速で回転させることが重視される。


同様に、プログラミングにはPDCAが欠かせない。最初からエラーが出ないことはまずないし、エラーをなくすためには、可能性を列記して、一個ずつ試して潰し込んでいく作業が必要なのだ。


「変化が大きい時代だと言われ続けてきましたが、『昨日と同じ明日が来る』という共同幻想は、新型コロナウイルスが猛威を振るったことで完全に崩壊しました。


概念としてPDCAを理解していても、行動に落とし込めている人は多くありません。プログラミングを通じてその作法を身につけるだけで、人生が変わるでしょう。


何か世界に変化を起こしたいと思うなら、まずプログラミングを習得すべきだし、どうせなら同じ思いの仲間が大勢いるG’sで学び、羽ばたいてほしい。一度しかない人生ですからね」(児玉氏)


(NewsPicksBrandDesign 制作)

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