《コラム》
注目ベンチャー4社に聞く!
今までボツになった
事業アイデアとは?【第2回】
【株式会社LIG × G’s ACADEMY】による連載コラム! ジーズアカデミーのサイトにお越しになる「起業家を目指す方」「エンジニアを目指す方」に向けて役立つ情報をお送りしています。
Web・IT業界を牽引するベンチャー企業4社のCEOに、資金調達の仕方・事業アイデアの出し方・メンバーの集め方など、起業に際しての疑問をぶつける全3回シリーズ。第2回目となる今回は、事業アイデアの出し方についてです。
▼第1回:資金調達編はこちら
注目ベンチャー4社に聞く!創業時の資金調達の仕方とは?【第1回】
■ 答えてくれたのはこちらの4社長!
土屋尚史CEO/株式会社グッドパッチ
1983年生まれ。ウェブ制作会社のディレクターを経て、サンフランシスコに渡りデジタルエージェンシーbtraxでスタートアップの海外進出支援などに従事。2011年9月にグッドパッチを立ち上げ、UIデザインに事業をフォーカスし、GunosyなどのスタートアップのUIを提供しサービス成長に貢献している。2015年5月時点で従業員は60名を越え、自社サービス『Prott』が多数の企業に導入加速中。
山本敏行CEO/ChatWork株式会社
昭和54年3月21日大阪府寝屋川市生まれ。中央大学商学部在学中の2000年、留学先のロサンゼルスにて中小企業のIT化を支援する株式会社EC studioを創業し、2004年法人化。2011年にクラウド型のビジネスチャットツール「ChatWork」の販売を開始。2012年に社名をChatWork株式会社に変更し、米国法人をシリコンバレーに設立。自身も拠点をシリコンバレーに移し、日夜マーケティング活動に奔走している。
小池温男CEO/トークノート株式会社
1980年2月12日生まれ。22歳までに世界30カ国を放浪。2003年より飲食店経営を行い2年間で4店舗を出店。2006年より成果報酬型求人サイトを運営。2010年、トークノート株式会社を設立して代表取締役に就任。2011年に社内SNS「Talknote」をリリース。Talknoteは、KDDI、エーピーカンパニー、ネクシィーズをはじめ、1万5000社以上の企業に利用されている。
古川健介CEO/株式会社nanapi
1981年生まれ。早稲田大学在学中の2000年に学生コミュニティ「ミルクカフェ」を立ち上げ、月間1000万pvの大手サイトに成長させる。04年、レンタル掲示板を運営する(株)メディアクリップ代表取締役社長に就任。翌年、(株)ライブドアにしたらばJBBSを事業譲渡。06年、(株)リクルートに入社。09年に退職し、(株)nanapi代表取締役に就任、現在に至る。
第2回目となる今回は、事業アイデアの出し方についてです。最前線で活躍する企業でも、今のサービスにたどり着くまでにはボツになった事業アイデアもたくさんあったはず。過去の失敗例をお聞きするなかで、最良のアイデアに近づくための道を探ります。
Q1. ずばり、今のサービスに行き着くまでに、ボツになったアイデアはどのくらいありますか?
▶︎ グッドパッチ
アイデアベースであればほかにもたくさんありましたが、起業時、実際に着手したのはUI/UXのコンサル、海外進出支援、コワーキングスペース運営の3つの事業です。そのうち、UX、海外進出支援、コワーキングスペースを辞め、最終的にUIにフォーカスすることで落ち着きました。
▶︎ ChatWork
2000年に起業してから、翌年2011年にChatWorkをリリースするまで、いくつボツになったか数えきれません。とにかく、アイデアを思いついたら即着手し、即リリースして即フィードバックを得、次につなげる。この回転速度を上げることが大切だと思います。
エグジットを経験したことがない起業家は打率が低くて当たり前なので、とにかく打席にたくさん立つことが重要です。
▶︎ トークノート
ボツになったアイディアは山ほどあります。常に考えてはボツにし、考えてはボツにするということを繰り返している気がします。
トークノートも初期の段階ではもともとLINEのようなCtoCのコミュニケーションサービスでしたが、途中でBtoBの企業向けサービスに事業転換し、今に至っています。
▶︎ nanapi
何百個もある気がします。
Q2. ボツになってしまったアイデアと、その理由を教えてください。
▶︎ グッドパッチ
最初からいくつものアイデアに着手したのはよくなかったと思います。起業時、グッドパッチに加え、コワーキングスペースの立ち上げなど、ほかに2つの事業も同時並行で進めていました。しかし、リソースも何もない状態だったので、案の定、途中で頓挫してしまいました。今思うと、最初からUIデザインだけにフォーカスするべきだったと思います。
▶︎ ChatWork
Google Analyticsのライト版として、「ウェブアナリスト」というアクセス解析ツールを過去に開発したことがあります。Google Analyticsは便利だけど使いこなすのが難しいと言われていたので、機能をシンプルにした初心者向けのものを作ったんです。
しかし、無料プランから有料版に移行してくれる人の割合が伸びず、結果、数億もの赤字を出してしまいました。有料会員になってまでアクセス解析をしたいという人は、多少難しくても情報量の多いGoogle Analyticsに立ち戻ってしまうんですよね。最終的にはサービスの閉鎖という事態に追い込まれてしまい、このことは、会社にとって大きな挫折となりました。
▶︎ トークノート
2006~2009年くらいにかけて、モバイルコンビ二というサービスをやりたいと思っていました。タワーマンションの一室など家賃の安いところを倉庫にして、そのタワーマンションとその近郊に住んでいる1,000~3,000戸くらいの住民だけをターゲットにして、注文を受けたら即時配達するというサービスです。
即時配送ニーズは確実にあるので多少高くても売れるという確信はあったものの、このサービスが成功し始めた時に大手コンビニチェーンに模倣されたら負けると考えて事業化はしませんでした。
▶︎ nanapi
実行していない時点でアイデア自体にはあまり価値がないと思っています。ですので、ダメになった理由もこれといって特にありません。
Q3. 今のサービスのアイデアを思いついたきっかけを教えてください
▶︎ グッドパッチ
サンフランシスコで現地のスタートアップがβ版の段階からUIデザインに力を入れていて、日本のアプリやサービスの作り方にギャップを感じたことがUIデザインの事業を始めたキッカケです。ただ、最初に同時進行していた3事業から1つに絞るときにお金がなくなっていたので、仕事をしたら次の月にキャッシュが入ってくるUIデザインの受託にフォーカスしたというのが本音です。
▶︎ ChatWork
「ウェブアナリスト」の失敗もあり、その後はWebサービス開発に合わせ、IT活用のコンサルティング業務も合わせて展開していこうと会社全体で方向転換したんです。そしてその頃、社内ツールとしてSkypeチャットを使っていたんですが、これをITを活用し業務効率に特化させつつWebサービスに落とし込んだのがChatWorkでした。
企画案を出した当初は、社内でも今のように成功すると信じてくれる人は少なかったのですが、最終的には社員一丸となって開発に尽力し、ここまでくることができました。
▶︎ トークノート
社内では共有すべき情報がたくさんあり、話さなければいけないこともたくさんあるのですが、うまく情報を共有し、円滑にコミュニケーションをはかれるツールがなく、自分自身がずっと困っていたんです。そのことを何人かの経営者の知人に相談してみると、みんな社内のコミュニケーションには困っていると言っていて、この問題を解決すれば事業になるんじゃないかと、そう思ってはじめました。
▶︎ nanapi
エンジェル投資家の方に「ハウツーサイトをやろう」と言われたのがきっかけです。
Q4. 「起業したいけれどアイデアがない」と悩む学生が多くいます。アイデアの出し方、もしくは彼らへのアドバイスがあれば教えてください
▶︎ グッドパッチ
私も30歳までには起業しようと考えていましたが、起業アイデアは当時まったくありませんでした。そこで思いついたのが、環境を変えてみることでした。そうすれば何か感じるものがあるかもしれませんし、それをもとにアイデアを練ることもできるかもしれないと考えました。
環境を変えるには、住む場所を変えるのが一番簡単です。自分の場合は、DeNA創業者である南場智子さんの影響でシリコンバレーにインターンに行き、運良くそこで今のサービスにつながるものを見つけることができました。もちろんシリコンバレーでなくて構いませんが、行き詰まったら、環境を変えて新しいものに触れてみるのもいいのではないでしょうか。
▶︎ ChatWork
アイデアを出すことが得意な人、作ることが得意な人、マネジメントが得意な人—-と、得意なことは人それぞれです。アイデアがないならアイデアを出すことが苦手だと割り切り、自分は何が得意であるかをはやく見つけましょう。そうして、アイデアを出すことが得意な人と一緒になって取り組むことが重要だと思います。「餅は餅屋」ですね。
▶︎ トークノート
自分が困っていること、不便だな、めんどうくさいなと感じていること、こんなことができたらいいなと思うことなどを思い浮かべながら、アイデアを出してみてはいか
がでしょうか。
▶︎ nanapi
素人の考えるアイデアはあまりたいしたことがない気がするので、学生で起業したい人は、先輩起業家や投資家の方に話を聞いてみるといいと思います。 実際にやってみればうまくいくのに、リソースがないがために宙に浮いたままのアイデアはたくさんあります。
また、それらのアイデアを知っても、取り入れようという人は多くありません。ですので、ほかから仕入れたアイデアを実行に移すだけでもうまくいく可能性はあります。あまり深く考えずに何でもやってしまうのがいいですね。
■ まとめ
どんなに優れた案に思えても、時勢に合わなかったり、競合との力関係に影響を受けるなどしてうまくいかないこともあります。かといって、1つのアイデアがダメになっただけで諦めてしまうようでは、はじめから起業に向いていないということ。
先輩4社の輝かしい成功は、数え切れないトライ&エラーの上に成り立っているようです。失敗を恐れず、むしろ糧にして進むくらいの切り替えができてはじめて、成功への道が見えてくるのかもしれませんね。
ライター:齋藤 玲乃
編集:LIGMO