世界の風景を指先ひとつで
連れてくる。
Web時代の新しい窓
LandSkip下村一樹氏【前編】

世界の風景を指先ひとつで連れてくる。
Web時代の新しい窓LandSkip下村一樹氏【前編】
ジーズアカデミーのサイトにお越しになる「起業を目指す方」「エンジニアを目指す方」に向けて、役立つ情報をお送りしています。
ジーズアカデミーで現在学ばれている学生、はたまた入学を検討している人のなかには、将来起業を志している方も多いかと思います。
2015年10月には、6ヶ月の学びを終え29名の第一期生が無事卒業を迎えました。はやくも会社を立ち上げ、サービスを展開している先輩もいます。
今回はその中の1人、ストレスフルな現代にWeb上で癒しを提供する風景動画配信サービス『LandSkip』を立ち上げた、株式会社ランドスキップ代表取締役の下村一樹さんにお話をうかがいました。
前半では、LandSkipが誕生した経緯やニーズ、今後のビジネスプランについて、後半では、起業やジーズアカデミーへの入学を通じて下村さんが得たことをお聞きしています。

下村 一樹さん
Haruka Hosaka
LandSkip 代表取締役
1987年、北海道生まれ。北海道大学を卒業後上京し、新卒でApple Japanに入社。当時、日本で発売されたばかりのiPadのデモなどを担当する。コンクリートジャングルに囲まれて働くなかで、都会では自然の風景を楽しめないと実感。その後、株式会社リスキーブランドに転職し、ブランド戦略のコンサルタントを担当。少数精鋭のチームで働くうちに、自分の手で会社を大きくしていくことに興味を持つ。プログラミング未経験だったが、風景を使ったコンテンツビジネスを立ち上げるために、2015年、ジーズアカデミーに第一期生として入学。株式会社ランドスキップを設立し、卒業と同時にサービスローンチ。
僕たちが「LandSkip」で実現するのは、「世界の風景を指先ひとつで連れてくる」という新しい体験です。具体的には、風景の撮影・配信・再現の3つの事業を一貫して運営しています。
Webサービスとしては、風景動画を配信することでユーザーに癒しの時間を提供しています。
簡単に説明すると、365日更新される風景映像コンテンツから、自分好みの新しい風景に出会ったり、その風景のリアルな動画を再生したり、ワイヤレス投影できたりします。
はい。それを3分間眺めて心のスイッチを切り替えることや、いつまでも部屋でループすることもできます。たとえば、朝のコーヒータイムにスマホで流したり、仕事の休憩中にPCで眺めて癒されたり、自宅では大型TVやプロジェクターに映して擬似体感するような使い方です。

北海道のダイヤモンドダストや沖縄のサンゴ礁の海、富士山の紅葉など、プロの映像作家が撮影した2,000を超える風景コンテンツは、宿やホテルのサービスとも連動しており、お気に入りの風景を見つけて「実際に行ってみたいな」と思ったら、そのまま近くの宿泊施設を予約することも可能です。
そんな「LandSkip」のサービスを思いついたきっかけは何ですか?
僕は、もともと生まれは北海道で、大学までは自然の風景を毎日のように眺めながら過ごしていました。
でも、就職で上京することになり、東京23区内のアパートに引っ越したんです。窓を開けたら隣の部屋の室外機が目に飛び込んできて、「これは、なんだ!?」と衝撃を受けましたね。
風景は心に癒しを与えてくれる―。でも、東京の風景には、僕が北海道で観てきたような価値を見出すことができませんでした。
たまの休みに、森の見える温泉に浸かりたいな、海を眺めながらビールが飲みたいな、と思って行こうとする。でも、お金がかかる。そもそも、忙しくて時間が取れない。
それならと今度はテレビで旅番組を観ても、風景の描写はすぐに終わってしまいます。僕にとって、癒される風景がないことはストレスだったんですね。そのとき、同じ想いを抱えている人がいるのでは、と思い至りました。

東京工業大学名誉教授の武者 利光先生がはじめの協力者です。武者先生曰く、突き詰めると、癒されるとは「1/fゆらぎ」の状態であること。そして、自然の風景のなかには、この「1/fゆらぎ」が多く存在しているんです。
わかりやすく言えば、「1/fゆらぎ」とは、規則正しさとランダム性が調和した状態のこと。川の流れは一定方向ですが、水の量や跳ね方、流れの速さも一定ではありません。炎のゆらぎも同じ。ほわほわと揺らいでいる状態に、人は癒されるんです。
癒しをリアルなものとして世の中に届けたい気持ちは、先生も僕も同じです。
はじめは、コンテンツ自体が課題でした。ユーザーが求めているのは風景の質。見ていて気持ちのよい風景にしないと、どんなに素晴らしい配信システムをつくっても振り向いてもらえないと思っています。
プロトタイプをつくっていたころは、なるべくお金をかけないで風景を撮影しました。だけれど、何か違う……。
そこで、全国の映像作家、風景撮影の第一線のプロに「僕たちは、こういう世界をつくりたい。力を貸してくれませんか?」と声をかけたところ、有り難いことに協力の声をいただいたんです。
僕が欲しかったのは、背中や横で流れていて、ふっと感じる風景です。プロは、「こういう風景ですね」と、すぐに意図を汲んで構図や縮尺にこだわって撮影してくれます。
おかげで、長時間流していても飽きのこない、クオリティの高い映像をたくさん確保できています。
また、フルハイビジョンの4倍の画素数のある4K規格で撮影しているので、ユーザーには、まるで実際の風景を観ているかのような、限りなくリアルな美しい映像を楽しんでもらうことができるんです。
まずは、ユーザーが求める風景をもっと取り入れていきたいです。人それぞれに、観たい風景は違います。このあいだ開いたユーザーイベントで興味深かったのが、「懐かしの風景を観たい」という声。
観光地でも都会でもない、学校のグラウンドなどの懐かしさを感じる思い出の場所が、誰にでもありますよね。
また、今は国内の海や森、夜景などが中心ですが、世界中の風景も配信していきたいです。旅行でオーロラを観に北極に行くとなると大変ですが、LandSkipなら、指先ひとつで体感できる。
ちょうどいまも、海外の映像作家に映画に登場する有名な風景を撮影してもらっているんですよ。
たとえば『ロード・オブ・リング』の舞台となったニュージーランドの森など、自分も含めファンも多いのではないでしょうか。もちろん、サービスの海外展開も視野に入れています。

映像コンテンツを扱うところも増えているので、たとえば、プロジェクターを扱う機器メーカーさんとタッグを組んだりといったことも考えています。
天井にライト型のプロジェクターで空を映し出したり、冷蔵庫の扉面に映像をディスプレイする仕組みもあると聞きました。
他にも、窓枠の付いたビジョンに投影することで実際の窓から外の景色を眺めているようなおしゃれなインテリアに活用したり、内装業者などのパートナーと組んで、壁一面すべてを「居心地の良い空間」へ変えるような空間演出・コンサルティングも行っています。

LandSkipは「風景」をあらわすlandscapeのオールド・イングリッシュで、懐かしい風景のことも意味します。Landscapeをskipするという未来を描いて名付けました。
病院の患者さんがベッドにいながら青い海を眺めたり、オフィスにいながら森のなか会議をしたり、ビジネスホテルや地下の飲食店で空を感じながら過ごしたり……。
「風景を連れてくる」感覚や「風景を切り替える」新しい体験、いつもの室内がリラックスやクリエイティブにつながる―LandSkipで目指すのは、そんな世界です。
※後編はこちら