工事現場での写真管理を限りなくスマートにする工事写真共有ホスティングサービスPhotoruction中島貴春氏×えふしん氏【前編】
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ジーズアカデミーでは、卒業生の制作発表の場として『GLOBAL GEEK AUDITION』を主催しています。6ヶ月間の学びの集大成であるプロダクトを参加者が思い思いにプレゼンし、企業の採用担当者やVC担当者の投票により、優勝者が決定する仕組みです。
2015年10月におこなわれた第1回では、建設現場の工事写真を撮影、管理するサービス「Photoruction」が1位を獲得しました。今回は制作者である中島貴春さんと、中島さんのメンターを担当された藤川真一(えふしん)さんにお話をうかがいます。インタビュー場所はえふしんさんがCTOを務めるBASE株式会社のオフォスです。
前半では、Photoructionの特徴やサービスが誕生した経緯、また今後のビジネスプランについて、後半では、中島さんの起業のきっかけやジーズアカデミーで得たことをお訊きしています。
Photoruction 製作者
中島貴春さん
1988年、群馬県出身。2013年、芝浦工業大学大学院建設工学専攻を修了後、大手建設業に入社。大規模建築の設計および工事現場での現場監督に従事した後、工事現場で使用するシステムの企画や開発、調達を担当する。2015年にジーズアカデミー第一期生として入学し、プロダクト発表会『GLOBAL GEEK AUDITION』では、建設現場の工事写真を撮影・管理するサービス「Photurction」を発表、1位を獲得。
BASE株式会社CTO/G’s Academyメンター
藤川 真一(えふしん)さん
1973年、埼玉県生まれ。高校時代からパソコン通信に興味を持ち、コミュニケーションを提供する仕事に就くことを考え始める。芝浦工業大学工学部電気工学科卒業時はFA装置メーカーに就職し、本格的にプログラミングに取り組む。その後、デジタルハリウッドにてHTMLを学んだ。2000年、Web制作会社の社長に誘われて転職し、Flash制作や動画ストリーミングのコンテンツマネージメントシステムに携わった。2006年、個人向けのネットサービスを提供していた paperboy&co.(現GMOペパボ) に転職。paperboy&co.所属時に、個人で、モバイル端末向けのTwitterウェブサービス型クライアント『モバツイ』の開発と運営を開始する。2010年には、想創社(マインドスコープに社名変更し、後にjig.jpに吸収合併)を設立し、代表取締役社長を務めあげた。想創社(version2)を設立したのち、2014年からはBASE株式会社のCTOに就任。
工事現場では、工事写真の管理に悩みを抱えている
ー「Photoruction」は、どのようなアプリなのでしょうか?
中島)「Photoruction」は工事写真をインターネット上で管理できる、BtoB向けのサービスです。主なターゲットユーザーとして、工事現場を束ねている現場監督を想定しています。
実際の工事現場では、進捗管理を写真で記録する必要があります。大きな工事用の黒板に「いつ、どこで、誰が、何を撮影しようとしているのか」を書いて、現場と一緒に写真を撮ります。そして、撮影した写真をパソコンに取り込み、黒板の情報をもとにして、写真をフォルダごとに整理します。最後は、エクセルなどに工事記録台帳としてまとめ、お客様に提出しているんです。
「Photoruction」を使えば、このような一連の作業をスマートにおこなうことができます。「Photoruction」のIOSアプリにはもともと電子黒板がフレーム状に埋め込まれているので、アプリで撮影し、日付などのデータを入力するだけで、自動的にインターネットのサーバ上へと写真が送られ整理されます。お客様に提出する帳簿を作成するときも、使いたい写真を選択して、テンプレートに合わせるだけでアルバムを作ることができます。
ー「工事写真を管理できるアプリ」とは斬新ですね。「Photoruction」をどのようにして思い付いたのですか?
△ Photoruction ロゴ
中島)サービスを思い付いたのは、僕が現場監督をしていたときです。現場では、たくさんの写真を撮影します。小さな規模の現場なら数百枚から数千枚、大きな規模の現場では何万枚にもなるんです。現場はとにかく忙しいので、膨大な数の写真をパソコンに取り込んで文字を打ち終えるころには、夜中になってしまいます。たとえば23時ごろに現場から帰ってきたとき、この一連の作業があると考えただけでも心労なんですね(笑)。写真管理は、「建物を建てる」という本来の業務とは全く関係がありません。だったら、工事写真を自動で管理してくれるサービスがあれば本来の業務にもっと注力できるのではないか、と思い付きました。
ーライバルになりそうなアプリには、どのようなものがありますか?
中島)「Photoruction」と同じコンセプトのサービスはまだありませんが、制作する上で参考にしたアプリはあります。写真操作のしやすさを重視したかったので、画像をインターネット上で共有できる「Instagram」や「LINE Camera」を見ながら、カメラ周りのUIを研究しました。
えふしん)「Photoruction」の場合は、とにかく扱う写真の枚数が多いので、写真の整理をいかに簡単にできるかという点は、メンターとして何度もアドバイスした記憶があります。たくさんの写真を綺麗に整理整頓するアプリは、意外と少ないんです。競合が少ないなかで、ITリテラシーの高くない人でも簡単に使えるアプリであれば、世の中にすぐ浸透していきます。逆に使いづらいと全く使われなくなってしまうので、どこまで使いやすくできるのか、というUIのバランスは重要でした。
プロダクトの持つ価値を形にするために、一歩を踏み出すこと
ーアプリが完成するまで、どのようなところで苦労されましたか?
中島)苦労と課題だらけでした(笑)。アプリの完成イメージは、ジーズアカデミーに入学した時点からありました。なので、卒業までに最低限ここまでは完成させようと決めて、時間の許す限り制作に取り組んだんです。でも、いざはじめてみると、一個の細かい問題にハマってしまい、一日が終わってしまうこともしょっちゅうありました。
ー藤川さんは、そのときの中島さんに、どのようなアドバイスをされたのですか?
えふしん)彼は常に先を考えて、さまざまなケースを予想していました。そのため、「この場合は、どう対処しますか?」といった質問が多かったんです。ですが僕は「技術的にはこれを勉強してこうやれば出来るけど、それは今取り組むべき課題じゃないから、必要になったときに考えればいいよ」とアドバイスしました。「とにかく徹夜で、今ある修正箇所を直して」と。
中島)えふしんさんには、 技術的な面を中心に色々アドバイス頂きましたが、クリアしないという選択肢を与えてくれたのが一番助かりました。
ー中島さんはマジメなんですね!
えふしん)そうなんです。彼は本当にマジメ。だからもっと肩の力を抜くようにと(笑)。
中島)(笑)。
えふしん)テータベースの構造については、基本ができていれば、少しくらい非効率でも気にしなくていいと考えています。いったんサービスの全体像を完成させれば、それを踏み台に、もっと内容を良くすることができます。本格的なサービスが稼働する前に、どれだけ内容を深められるのかが勝負です。いま見えているサービスの延長線上と、一歩二歩と進んだときに見える未来は絶対に違います。だから、一歩踏み出すことが大切です。
△『GLOBAL GEEK AUDITION』デモデイの様子
なによりも大事なのは、短い期間で作品をきちんと出すこと。もしもデモデイで良い作品に見えなければ、見る人の心に刺さりません。自分はこういうことをやりたいんだ、頑張ったんだと発表で言えるかどうか。熱意をプロダクトとして形にして、なおかつ、それが良い評価を受ければ、卒業した後でも活躍できます。本当にやりたいことなのであれば、ゴールはもっと先にあることを、彼に知って欲しかったんですね。
ーまさに中島さんはイメージを形にしたからこそ、デモデイに臨めていますよね。「Photoruction」は1位を獲得しましたが、藤川さんはどのような点が評価されたと考えていらっしゃいますか?
△『GLOBAL GEEK AUDITION』最優秀賞獲得
えふしん)やはり、きちんとアウトプットを出せたという点に尽きます。しかも、彼の「Photoruction」はユーザーにとってのメリットがわかりやすい。「ユーザーにとって何がハッピーなのか」が明確なサービスでないと、見ている人には伝わりません。
中島)プレゼンでは、「写真を撮っただけで作業が終わる」ことをアピールしました。一般的な業務システムを使ってみるとわかりますが、情報を入力するためのフォームやボタンがたくさんあります。でも、実際は入力しても活用されないデータも多い。だから、必要な項目を改めて洗い出し、写真を撮っただけでそれらが自動入力され、無駄な時間が省けるような仕組みを作ったんです。
写真を自動で判別して、建設現場の負担を減らしたい
ー今後、「Photoruction」でどのようなことを実現したいですか?
中島)今後は、機械学習の機能を使って、写真の中身を自動解析できる仕組みを作っていきたいです。工事写真の主な目的は、きちんと工事しましたという事実を記録として残すこと。そのため必ずしも人間の目で確認する必要はなく、テクノロジーで解決できる部分だと考えています。
これから立ち上げる会社は、「建設の世界を圧倒的にスマートにする」をコンセプトとしています。今の建設業界は、致命的な労働不足に陥っています。仕事の量は大きく変わらないにも関わらず、人がどんどん減って、労働環境はより過酷になっています。そういった余裕のない状況は品質問題に繋がりますし、ますます産業から人が離れていきます。ITの力を使ってそういった状況を少しでも変えていけたら良いなと思っています。
「Photoruction」という名前は、写真を撮りながら建物を作りあげていくことをイメージし、photo(写真)とconstruction(建物)を掛け合わせた造語です。工事写真を、楽にスマートにしたいという想いを込めました。アプリのリリースは、今年の8月ごろを目指しています。まずはターゲットの方々に使っていただいて、工事写真の管理をスマートにできるようにサポートしていきたいですね。
【後編はこちら】
ジーズアカデミーでキャリアのレールチェンジを実現 工事写真共有ホスティングサービスPhotoruction中島貴春氏×えふしん氏【後編】
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ライター:流石 香織
撮影・編集:齋藤 玲乃